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なぜ「iTunes Radio」は世界最大の音楽配信サービスとなり得るのか

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先日開催されたWWDC 2013で、遂にベールを脱いだ「iTunes Radio」。アップルは、音楽配信サービスで先行するPandoraやSpotifyに勝負を挑むことになります。はたして、アップルの新たなチャレンジは成功するのでしょうか。英国のThe Guardianが考察しています。

世界最大の音楽配信サービスはアマゾンだと思っている人が多いですが、そうではありません。生まれて10年が経ったアップルのiTunesミュージックストアこそが最大で、これまでの配信件数は、PC、iPhone、iPadなどにインストールされる形で、3億件を超えています。ティム・クックCEOによると、アップルストアが保有するクレジットカード番号の数は、5億7500万。他のインターネットストアの追随を許しません。しかしアップルの真の強みは、携帯端末業界専門調査会社アシムコの創業者であるホレース・デデュー氏によると、iTunesが毎日50万件の新アカウントを追加していることです。

ミュージックストアの揺籃期から、アップル社と音楽ビジネスの関係は愛憎の絡み合ったものでした。良い点は、デジタル化された音楽がお金儲けの種になることで(ファイル共有のせいで儲けがこぼれ落ちてしまうようになる前の話)、悪い点はアップルが行使する強い力に対する恐れでした。

しかし先週サンフランシスコで行われた世界開発者会議(WWDC2013)で告知されたiTunes Radioをもって、両者の愛憎関係に終止符が打たれた模様です。iTunes Radioは、ストリーミングのラジオ配信サービス。表面的には、米国ベースのPandora(登録ユーザー数は2億人)、スウェーデン発の世界に開かれたSpotify(世界中に2400万人のユーザー、うち有料ユーザー600万人)、RdioまたはLast.fm、ほか多くの「音楽ストリーミング」サービスとよく似ています。

楽曲を所有したり購入するのではなく、ストリーミングで視聴します。しかもユーザー各自の好みに合わせて楽曲が提供されます。各1回のプレイに、ごく僅かな金額が課金されます(少なくともSpotifyだと1トラックにつき、英国では0.085ペンス(約0.13円)、米国ではその約10倍で0.96セント(約0.92円))。

他の音楽ストリーミングサービスの経験が教えるところは、利益を生むのが難しいということでした。なぜなら、音楽は量が増えてもコストが下がらないからです。ウェブ上の用語を使えば、「スケールメリットがない」ということになります。だからSpotifyは、無料の視聴に1か月10時間という上限を設けており、Pandoraは米国外からの視聴をブロックしています。

スティーブ・ジョブズはかつて、ストリーミングモデルには興味がないと始終公言しており、2007年にロイターの取材に応じた際は、「顧客はそんなものに興味をもっていないようだ」と述べましたが、それも今となっては昔の話。アップルはお金儲けのできることであれば何であれ、軌道修正することに迷いはありません。iPad miniしかり、今回の音楽配信サービスしかりです。

では、どうやって儲けを出すつもりなのでしょうか?まず、ユーザーをiTunesのエコシステム内に取り込みます。最初は米国でスタート、アップルは5400万のiPhoneユーザーを抱えています(アップルのインターネット関連ソフトウェア・サービス担当上級副社長であるエディー・キュー氏が、欧州やその他の音楽レーベル会社・出版社と協議をもち、すぐにも契約を結んでいくことでしょう)。

米国内に限っても、かりに5000万人がアップグレードし、1か月当たりiTunes Radioを10時間視聴するとすれば(約200トラック)、それだけでも1か月に9690万米ドル(約91億円)が音楽レーベルに流れ込みます。うまみたっぷりですね!

SpotifyやPandoraにとっては耳の痛い話ですが、アップルはキャッシュの山にさらに利益を追加することになりそうです。もしアップルがさらに数百万台のiPhoneやiPadを売り上げれば、それは純利益ともなります。iTunes Radioは広告付きなので、出だしは好調となりそうです。すでにウィンウィンです。

次に、ある楽曲が気に入れば、iTunesから直接購入することにもなります(ワンクリックで購入可能)。英国内に限って推計すれば、かりにアップルがすべてのiTunesそれぞれから僅か数セントの売上を得るだけでも、50回の視聴につき1回購入があるだけで、サービスの損益分岐点を超えます。ウィンウィンウィンです。

アップルに対して腹に一物ある音楽ビジネス業界は、アップルに対して距離を置いてきました。音楽レーベル各社はSpotifyに協力し、それは素晴らしいサービスとなっています(ソーシャルな要素を好むハイエンドな顧客を確保)。またアマゾンを贔屓にし、そのMP3サービスを支えています(アマゾンも近々iTunes Radioのような何かを発表する可能性あり)。またGoogleに対しても今年5月、その長々しい名称の「Googleプレイミュージックオールアクセス」という音楽ストリーミングサービス立ち上げを支援しました。これはGoogleの他のサービスと異なり、広告付きではなく、有料配信のみです(先ほどの「スケールメリット」の問題でしょう)。

しかしやはりアップルこそ、多くの期待に反して、デジタル音楽サービスを世界規模に拡大できるプレーヤーとなりそうです。アップルはiTunes Radioに関して、数か国と契約を結ぶだけで、今秋の公式ローンチが始まれば、世界最大の音楽ストリーミングサービス提供者となり得ます。

さかのぼること2003年、スティーブ・ジョブズは音楽レーベル各社を説得して、iTunesミュージックストアとの契約を取り付けました。その頃はまだ、アップルのユーザー数は圧倒的に少ない時代でした。なので失敗があっても、大きな影響はなかったわけです。しかし今回にいたっては、音楽配信サービス史上ベストの結果の一つを見ることになるでしょう。

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