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なぜアップルはiPhone 5を67字で記述するのか?

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新iPhone 5を1文で記述するにはどうしたらよいでしょうか?多数の著書をもつコミュニケーション専門家であるカーマイン・ギャロ氏が、米国Forbesに寄稿しております。

新iPhone 5登場後1週間、ツイッターには、何千ものツイートが同じ形容詞を使っています。まるで一人の人間が書いているかのようです。iPhone 5についてのツイートはどれもこれも、「より薄い、より軽い」です。

ある一つの製品を記述するのに、どうして何千人もの人々の言葉がまったく同じものになってしまうのでしょうか?Googleで、「iPhone 5」+「 thinner(より薄い)」+「 lighter(より軽い)」で検索をかけると、2900万件の検索結果が返ってきます。ツイッター、新聞、雑誌記事、ブログ投稿、ラジオ、テレビ、ポッドキャストいずれにおいても、iPhone 5については、同じ言葉が使われています。

ツイッター向きのヘッドライン(見出し)を作る

アップル社のマーケティングチームは、「ツイッター向き(フレンドリー)のヘッドライン」を編み出すのに、非常に長けています。アップルが送り出す全ての製品において、そう言えます。ツイッターが存在しなかったスティーブ・ジョブズの時代から、アップルにはそういう巧さがありました。

初代iPodとは何でしょう?ジョブズによると「1000曲をあなたのポケットに」。MacBook Airは?「世界一薄いノートブック」。ジョブズは何もツイッターで投稿するために製品の記述を考えていたわけではありません。顧客が記憶し反復して使いやすいように、大切な情報を盛り込みつつヘッドラインを短くすることを、ジョブズは直感的に理解していたのです。よってツイッターの140字という制限は、すぐれたガイドライン(指針)となっているわけです。140字を超えてしまうと、覚えるのが難しくなってしまいます。

さてiPhone 5ですが、ここでもアップルのマーケティング戦略が奏功しています。あるエグゼクティブが発表のプレゼンにて、初めてヘッドラインを開示します。すると、そのプレゼンが終わるや否や、メディア関係者はそのヘッドラインと全く同じ記述を使い始めます。アップルのマーケティングチーフであるフィル・シラーはプレゼンの間、次のようなヘッドラインを送りました。

「iPhone 5はこれまでのiPhoneの中で、最も薄く最も軽い」(The iPhone 5 is the thinnest and lightest iPhone we have ever made.)

このセンテンスは67字です。ツイッターの140字制限にも収まります。同社のビデオクリップで、デザインのチーフであるジョナサン・アイブ氏も、このヘッドラインを全く同じように繰り返しています。「iPhone 5は私たちが作ってきたiPhoneの中で、最も薄く最も軽い」。どうやらアップルの報道官は、このヘッドラインを社内で統一している模様です。

9月12日午後12時(太平洋標準時刻)、アップルはプレスリリース用の同社サイトページをアップデート。そこには「アップルはiPhone 5をご紹介します。最も薄く最も軽いiPhoneです」とあります。このプレスリリースが出た後すぐに、AP通信社はヘッドラインを「アップル曰く、新iPhone 5はより薄く、より軽くなる」としました。

数百の新聞及びオンラインニュースサイトがAP通信社の報道を載せ、このヘッドラインは数千の読者間で共有されることになりました。そして新聞、ブログ、ニュースサイトもこれに従い、アップルの出した記述を元にヘッドラインを拵えました。以下に例があります。

NPR:アップル、より薄くより軽くなった新iPhone 5をリリース

CNET:iPhone 5、より薄くより軽くより早くなった

Endgadget:iPhone 5レビュー。より薄くより軽くより早くよりシンプルに

ツイッター上の多くの人々は、これらのメッセージを受け取り、自身のコメントを送り始めます。リリース告知後に投稿されたツイッターコメントの例があります。

「おめでとう。iPhone 5はより薄くより軽くなった。『後ろポケットに入ってるなんて気付かなかった』保険が販売されますように」@zeldawilliams

「iPhone 5ダイエット。より早くより薄くより軽くより背が高く、そしてより良い見映え」@qman_tweets

「より薄くより軽くより早く。でもiPhone 5のことじゃないよ。今朝きついワークアウトをした僕のことさ」@augustprabhu

リリース告知数時間で、アップルは望みどおりの「語り」を拵えることに成功しました。また同じく重要なこととして、これによってアップルストアの販売員が使う宣伝文句も出来たわけです。販売員と顧客の間で、次のような会話が聞こえてくるようです。

販売員「iPhone 5にご興味おありですか。これは我々自慢の一品です。これまでで最も薄く最も軽いiPhoneです」
顧客「そうですね。本当に軽い。どれぐらい軽いんですか?教えてもらえますか?」
販売員「ええ喜んで。ところであなたはiPhoneをすでにお持ちですか、それとも今回が初めてですか?...」

ツイッター向きのヘッドラインは実に効果的なので、何を記述するのにも使えます。製品、サービス、取り組み、戦略、企業。もしアイディアを140字以内で記述できないなら、そう出来るまで何度もチャレンジするべきです。相手はカテゴリーを求めているのです。バケツと言ってもいいでしょう。情報を入れておくバケツです。バケツが準備できて始めて、細部を語ることができるのです。

注意点が一つ。ヘッドラインとスローガンを混同してはいけません。スローガンは扇情的なモットーまたはフレーズ。それは製品の利点を教えるのでもなく、製品が何であり何をするかを伝えるものでもありません。例えば、以下です。

コカコーラ:「幸福を開けよう」(Open happiness) ソーダ飲料への言及ゼロです。

ナイキ:「ただそれをせよ」(Just do it) 靴への言及ゼロです。

マクドナルド:「それを愛してる」(I'm lovin' it) 食品への言及ゼロです。

ヘッドラインというものは、顧客に向けて製品を位置づけるために使われます。そして販売員がお客さんとの会話で使いやすいよう、短く覚えやすいものであるべきです。ツイッター向きのヘッドラインは、1文で多くを伝えます。全部を伝える必要はないのです。それは「つかみ」(注意を惹くもの)であり、読み始めたら止められないものです。さらに製品について多くを知り、考えたくなるようにさせるものです。

※カーマイン・ギャロ - コミュニケーションの専門家。世界中で有名なブランド企業に貢献。講演、著書でも人気を博し、スティーブ・ジョブズに関する著書も複数出版。

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